2023年4月12日
大切な家族が年齢を重ねて、だんだんと家で暮らすことに限界を感じだすと、ついのすみかとなる老人ホームを探す人が多いでしょう。いくら仲良く一緒に同居していても、認知症や病気を抱えた高齢者の世話に付きっきりになると、家の中の雰囲気がぎくしゃくしていきます。
筆者の祖母も、認知症になってから6年間、一緒に暮らした経験がありますが、どこかで「老人ホームに入れるのは家族としてどうなのか」と思うところがありました。
ですが、症状が日に日に悪化し、トイレの失敗や夜の徘徊、警察のお世話になることもあって、祖母に怒鳴るのが当たり前になっていたことを今では後悔しています。結局、担当のケアマネジャーから「もうご家族が限界だと思います」と言われて、ハッと気付きました。
祖母は最期の2年間は老人ホームでお世話になり、安らかに旅立ちました。今振り返れば、もっと早く入居を考えれば良かったと思います。
その後、縁あって筆者は介護福祉士になり、いろいろな介護現場を見てきました。一口に老人ホームといっても種類がたくさんあり、予算や本人・家族の希望で入れる施設は決まっていきます。ここではどの施設を選んでも、入居する場合には最低限知っておきたい「いい施設」の見分け方をご紹介します。
①老人ホームで働く介護スタッフの質
老人ホームで働く介護スタッフの質で、施設の良さは決まります。これ以上、大切なものはないといっていいでしょう。
どんなに入居費用が高い老人ホームだとしても、世話をしてくれるスタッフの質が悪ければ意味はなく、逆に低予算で入れる特別養護老人ホームでも、スタッフが良ければ特養を選んだほうが賢明です。
見学に行った際には、スタッフと入居者の会話に耳を澄ませてみてください。入居者への丁寧な対応と会話ができているのかはすごく重要です。
中には友達言葉で話すスタッフもいます。耳が遠くてあまり聞こえない、認知症で理解ができない人に対しては、敬語を使わず端的に分かりやすく伝えるために、そのような言葉遣いをする場合があります。
ですが、それは決してばかにしているわけではありません。入居者を尊重し、親しみを込めて、愛情を持って接しているかどうかは、会話を聞けば何となく分かります。
スタッフから積極的に会話をしている、静かなスタッフでも入居者の話に耳を傾けている―。そうした施設は、思いやりのある職員が多い証拠です。
②レクリエーションで作った掲示物、季節の作品などを飾ってあるか
レクリエーションで作ったものが、施設に展示されているのかどうかもポイントです。活発な老人ホームには、季節ごとの貼り絵や塗り絵、折り紙作品などが必ず飾ってあります。
習字が掲示されている場合も多く、たくさん数がある場合は、日頃からスタッフがレクリエーションへの参加を入居者に促しているといえます。
殺風景な施設であれば、少し注意して観察してみてください。レクリエーションの大半は午後に行われます。入居者が昼間に何もしていないのは、スタッフの人員不足で、放っておかれている可能性があります。
運動を中心に行う施設もあるため、全てに当てはまるわけではありませんが、どんなに簡単なことでも手先を動かして作業をしていることが分かる施設をおすすめします。
③食事中の様子を見学する
見学時には食事の様子を見たいと、施設側にお願いすることをおすすめします。食事の時間には、施設の「素の表情」が見られるからです。できれば午前11時半からの見学を予約しましょう。
施設では3食おやつ付きで、入居者全員を誘導し、食事を配膳して、様子を見たり食事介助に入ったりしなければなりません。食事後は順番に部屋へ戻り、排泄や着替えなどを行うため、スタッフにとっては忙しい時間帯です。この忙しい時をあえてのぞくことで、スタッフの質がよく分かるのです。
筆者は昔、ショックな光景を目の当たりにしました。車椅子に座る入居者さんを数人並べて、スタッフが鳥の餌をあげるかのような食事介助を平然と行っていたのです。「いくら人手不足とはいえ、これはひどい」と、怒りたくなりました。
中には入居してからしばらくの間、毎日のように食事の様子を見にくるご家族もいました。その方は娘さんでしたが、自分の親がどんな扱いを受けているのか、気が気でなかったのでしょう。
日頃どんな食事が出されるのかも、気になるところです。入居すれば、大事な家族が毎日食べることになります。実際に目で見て確認することが大事です。老人ホームの食事は、健康状態や体調により、常食、きざみ食、ソフト食などいろいろな形態があるので、いい勉強になります。
④入居後、最初は静かに見守る
入居したら、最初は静かに見守りましょう。
入った途端にさまざまなことを頼むご家族がいます。必要事項や要望を伝えることは問題ないのですが、当然ながら入居者は1人でないことに留意する必要があります。
自宅にいた頃と全く同じように生活することは難しく、いつでも家族のように接してもらえるかというと、そうはいきません。スタッフはあくまで介護という仕事をしているのです。相性もあるでしょう。集団生活なので、いろいろな不満が出てくるかもしれません。
まずはせっかく縁あって入居できたのですから、黙って見守る姿勢が良いかと思います。しばらく改善されない、どうしても納得がいかないと思うことがあれば、その時は遠慮せず、話しやすいスタッフやケアマネジャー、施設長に伝えましょう。
そして、大切な家族にはなるべく会いに行きましょう。子どもが頻繁に来ると、「きっと愛情深くわが子をお育てになったのだろう」と、スタッフの見る目が変わり、より丁寧に対応しようという気持ちが自然と湧いてくるものです。
いかがでしたでしょうか。介護現場で働きたいと考えている人にも、参考になったのではないでしょうか。