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④在宅医療に臨床宗教師 時間気にせず傾聴

2022年11月5日

 ※文化時報2022年6月7日号の掲載記事です。

 医療法人社団豊寿会が運営する「はもれびクリニック」(千葉県鎌ケ谷市)は、臨床宗教師=用語解説=を雇用する全国でも数少ない在宅医療機関の一つだ。2015(平成27)年4月に開設されて在宅医療と訪問看護を行っており、年間約75人を看取(みと)っている。現在では高齢者施設と自宅の看取り数は半々となっている。

お寺のポテンシャル

医療者には本音出さない

 はもれびクリニックが臨床宗教師を雇用し始めたのは17年。狙いについて、細田亮院長は「本人や家族が満足できる看取りを行うには信頼されることが重要で、そのためには当事者の話をよく聴くことが必要」とした上で、次のように話す。

 「普段の業務の中で、医師や看護師が患者さん1人に対し、話を聴く時間を30分以上割くのは困難だ」

 また、医師や看護師の前では上下関係を意識してしまい、本音を出せない患者や家族が多い。さらに、死生観やスピリチュアルケア=用語解説=に関しては、医師や看護師が直接関わるよりも、その分野の専門性が高い人の方が適している。そうした理由から、雇用することにしたという。

 雇用形態は、非常勤で月2~3日勤務。「時間を気にせず話せることが大事」と考え、1日に話を聴く相手を2~3人に制限し、月5~6人を月1回程度訪問して、傾聴を中心としたケアに当たっている。

患者の話に耳を傾ける臨床宗教師
患者の話に耳を傾ける臨床宗教師

 勤務時間が限られていることから、ケア対象者は、細田院長や看護師が必要性を感じた人を優先して実施。ケアが始まってからは、患者や家族の要望を踏まえて行っている。このほか、臨床宗教師が在籍していることをホームページやパンフレットでも告知しており、それらを見て依頼してくる人も年に数人いるという。

施設入居者の話し相手に

 現在、ケア対象者で最も多いのは、施設に入居している高齢者のうち、「周囲に話し相手がおらず、ひきこもりがちになっている人」。そうなっていても、職員はどうしたら良いのか分からず、臨床宗教師が話し相手を中心としたケアをする機会が多くなっている。

 高齢者に対するケアの効果について、職員たちは「軽度の認知症で笑わなかった人が、笑うようになった」「全然話さなかった人が話すようになった」「夜になると興奮していた人が、ちょっと穏やかになった」などと実感しているという。

 臨床宗教師がケアしている人の中で次に多いのは、末期のがん患者だ。細田院長はがん治療の専門医であることから、自宅では末期がん患者の診療依頼が多く、「手術をして、小康状態に入っていて、話し相手が欲しい人」のケアをしてもらっている。

生きづらさに対処する

 ケア対象者の中には、難病の男の子もいる。頭はしっかりしているが、口がうまくきけず手足も動かせないので、パソコンの文字で意思疎通を図る。テレビゲームが好きなことから、臨床宗教師は「手」となってゲームを進め、疑似体験してもらっている。母親は「子どもがゲームをすることができて、とても喜んでいる。自分たちも一生懸命ケアしているが、ゲームまではできないのでとてもありがたい」と話しているという。

難病の子の代わりにゲームをすることも
難病の子の代わりにゲームをすることも

 臨床宗教師を雇用して約5年が過ぎ、細田院長はこれまでの成果について次のように考えている。

 「いろいろな生きづらさを抱えている人がいて、そうした人をケアしていくのも、広い意味でスピリチュアルケアと考えるようになった」

 施設入居者の話し相手になったり、子どもと一緒にゲームをするだけでも十分なケアになる。そのことを、多くの宗教者に伝えたいという。

 臨床宗教師には今後、新しい役割を担ってもらう予定だ。一つは、現在関わりのある高齢者施設や訪問看護ステーションのスタッフ向けに、スピリチュアルケアや傾聴の講習会を行うこと。また、末期がん患者を看取った後の遺族ケアも行っていきたいという。

対象者に教えていただく 菅原耀さん

――ケア対象者は、どのような話をすることが多いですか。

 「人によりますが、やはり悩みを語る人が多いです。中には、障害のある方もいて、思い通りにならない悲しさ、悔しさを言葉にされます」

――ケアの方法は、ひたすら傾聴することですか。

 「傾聴が基本ですが、感じたことをお伝えすることはあります。私の方から積極的に宗教の話をすることはありません」

クリニックがある建物内には、地域づくりのためのフリースペースとカフェが設けられている
クリニックがある建物内には、地域づくりのためのフリースペースとカフェが設けられている

――ケアを受けると、対象者は変化しますか。

 「どんなふうに変わっているのかは判断できませんが、話された後に、少し安心され、気持ちが落ち着かれたように感じる人は多いです。気持ちを誰かに受け止めてもらうことによって、そのようになるのだろうと思います」

――臨床宗教師としての仕事に、充実感ややりがいなどを感じますか。

 「お寺の外で、皆さんの老病死という生活を、傾聴を通して教えていただくことにより、私の死生観を育んでいくありがたい機会になっていると思います」

臨床宗教師・厳念寺副住職
菅原耀さん(臨床宗教師・厳念寺副住職)

塚本優が聞いた「宗教者への要望」はもれびクリニック

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)

 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年9月現在で214人。

【用語解説】スピリチュアルケア

 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

 「塚本優と考える お寺のポテンシャル」では、福祉業界や葬祭業界を長年にわたって取材する終活・葬送ジャーナリストの塚本優氏が、お寺の可能性に期待する業界や、お寺のの先進的な取り組みを紹介します。

 

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