検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 福祉仏教ピックアップ > お寺のポテンシャル > ②老人ホームで葬儀7割

つながる

福祉仏教ピックアップ

②老人ホームで葬儀7割

2022年10月5日 | 2022年10月27日更新

 ※文化時報2022年5月10日号の掲載記事です。

 東京海上日動ベターライフサービス株式会社が運営する介護付有料老人ホーム「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジⅠ」(川崎市宮前区、定員112人)は、亡くなった人の葬儀の約7割をホームで営む。ホーム内で葬儀を行う高齢者ホームはさほど多くはなく、行っていても1~3割程度にとどまるのが通例で、非常に高い割合といえる。またお盆には、迎え火・送り火などの行事も行い、故人をしのぶという。

お寺のポテンシャル

病院死でもいったん帰る

なぜ、葬儀やお盆行事を重視しているのか。岩佐茂支配人はこう語る。

介護付有料老人ホーム「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジⅠ」
介護付有料老人ホーム「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジⅠ」

 「ビレッジⅠは、入居者がこれまで過ごしてきた家に替わる『終の住処(すみか) 』となることを目指しています。入居者が亡くなった時には、ご自宅やご実家などと同様、ご家族皆でゆっくりとお別れができるようにしようと考えました」

 そのため、2000(平成12)年12月の開設時に「静堂」という部屋を設けた。ホームでは珍しい遺体安置・葬儀専用室だ。

施設内の「静堂」。遺体を安置し葬儀を行う専用の部屋だ
施設内の「静堂」。遺体を安置し葬儀を行う専用の部屋だ

 葬儀の段取りは、次のようになっている。

 葬儀社が決まっておらず、希望する家族には、ホームと提携している葬儀社を紹介する。「知り合いの葬儀社さんがいても静堂での葬儀を行っている葬儀社さんの方が、よく分かっているだろう」と紹介を希望する家族も結構多く、7~8割が紹介になっているという。

 葬儀社が決まると、ホームはスケジュール以外は関知せず、葬儀の場所や内容、進め方などは家族が葬儀社と相談して決める。静堂の定員は20 人ほど。参列者がそれより多い場合は、葬祭会館などを利用する。

 亡くなる人の7~8割はホームで看取(みと)られる。それ以外は病院死だが、「病院で亡くなられても、住み慣れたホームにいったん帰り、一緒に何年か過ごしたスタッフに見送ってほしいというご家族が多い」という。

ほかのホームに比べて葬儀を行う割合が非常に高い点について、岩佐支配人は「一番の要因は、静堂があるからだと思います」と語る。

 また、見送りを業務用口から行うホームが多い中、ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジⅠは表玄関から丁寧に見送っている。「ホーム内での葬儀や見送りの様子を見たり、実際に立ち会ったりする機会もあり、『自分もここで葬儀を行いたい』『ここから送ってあげたい』という本人とご家族が多くなっています」と岩佐支配人は話す。

 中には、幾つかのホームを見学して、葬儀を行っていることが入居の決め手になった人もいるそうだ。

「送る言葉」 に感激

 葬儀の形や進め方は、葬祭会館などで行う通常の葬儀と同じだ。静堂の中に祭壇をしつらえ、導師と家族・親族が着席。ホームの職員や入居者は、入口の引き戸を広く開け、廊下に並んで参列する。

 参列する職員は、故人が居住していたフロアの介護スタッフのほか、看護師、受付事務、リハビリの担当者ら20人ほど。「故人と関わったスタッフがちゃんとお別れできて、とてもいい」との声がよく聞かれるという。

「静堂」にしつらえた葬儀の祭壇
「静堂」にしつらえた葬儀の祭壇

 告別式では、故人を担当した職員が、故人や遺族に向けた「送る言葉」を読む。故人の日頃の様子を伝えるほか、故人からこういうことをしてもらった、こんなことを教えてもらった、などと感謝の言葉を述べるスタッフも少なくない。

 岩佐支配人は「その結果、最期をホームに委ねてしまって本人は幸せだったのか、といった罪悪感を持っていたご家族は、ほっとしたり、感激したりして、ホームや担当スタッフに感謝されることが多い」と語る。

直葬ゼロ、宗教葬9割

 新型コロナウイルス感染拡大後、葬儀の形は一日葬が多くなっているが、コロナ禍前は通夜と葬儀・告別式が約8割、一日葬が約2割で、直葬はゼロ。宗教葬と無宗教葬の割合は、9対1だった。

 ホームと提携している葬儀社の一社は、次のようにみる。

 「ヒルデモアさんの入居者・家族は、お金に比較的余裕があり、きちんと弔う生活をされてきているのでしょう。亡くなる方はほとんどが80代以上で、読経しないと成仏しないと考えている世代ですから、宗教葬にされるご家族が多いのだと思います」

 その結果、葬儀単価も他で行う葬儀に比べ、2~3割高いという。

 導師は、菩提寺にお墓がない場合や菩提寺が遠方の場合は、ホームと提携している葬儀社に紹介を依頼するケースが多く、菩提寺と葬儀社の紹介がほぼ半々。読経時間は、通常の通夜や葬儀・告別式と同じで30分~45分ほど。「ここで葬儀を挙げるご遺族は、読経をきちんと聴いていらっしゃいます」という。

 葬儀における宗教者への期待について、岩佐支配人は次のように語った。

 「従来は病院で亡くなる方が圧倒的でしたが、最近は在宅死や、ホームでの看取りを希望する方が増えてきていると思います。その中でこそ感じるいろいろな葛藤や後悔に対して、どのように寄り添い、何を伝えていくべきなのかを、葬儀やそれ以外の場面においても一緒に考えたり、導いていただきたいです」

塚本優が聞いた「お寺への要望」

 「塚本優と考える お寺のポテンシャル」では、福祉業界や葬祭業界を長年にわたって取材する終活・葬送ジャーナリストの塚本優氏が、お寺の可能性に期待する業界や、お寺のの先進的な取り組みを紹介します。

 

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています