検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 福祉仏教ピックアップ > お寺のポテンシャル > ①境内に自立支援デイ 曹洞宗寺院と提携

つながる

福祉仏教ピックアップ

①境内に自立支援デイ 曹洞宗寺院と提携

2022年9月7日

※文化時報2022年4月5日号の掲載記事です。


 自立支援型デイサービス(以下、デイ)を全国で展開している株式会社ポラリス(兵庫県宝塚市)は、曹洞宗四天王寺(津市)と業務提携し、2021年8月に四天王寺の境内にデイを開設した。高齢者を元気にする同社のこれまでのメソッドに加え、寺院ならではのさまざまな特徴も取り入れることにより、高齢者の心身両面を健康にする"寺院型デイ"のモデル確立を目指している。

お寺のポテンシャル

 ポラリスは、外科医の森剛士社長が、介護保険がスタートした2000(平成12)年の2年後に立ち上げた介護事業会社。「自分の足でしっかりと」をスローガンに、高齢者を元気にする自立支援に特化したデイに注力しており、現在、全国で52カ所を展開している。「要介護度5の人を4や3にしたり、車いすや寝たきりだった人を歩けるようにしたりするなどの実績を積み上げています」と、森社長は話す。

元幼稚園だった建物をデイに改造した「四天王庵」
元幼稚園だった建物をデイに改造した「四天王庵」

イス座禅と法話から

 四天王寺の敷地内に開設したデイは、かつて幼稚園だった建物を、ポラリスが賃借して運営。直営だが、社名は前面に出さず「通所介護・四天王庵」と名付けている。

 運営形態は、1回18人の1日2回転制。1回の時間は3時間で、ほかのデイと同様、歩行能力回復など自立支援に特化した運動プログラムを提供している。加えて、寺院ならではの特徴として、プログラムの最初に倉島隆行住職が「イス座禅」と「法話」を行っている。

内部はポラリスの他のデイと同じ配置だ
内部はポラリスの他のデイと同じ配置だ

 利用者には檀家だけでなく一般の人もいることから、宗教的な言葉は一切使わず、イス座禅は「脳を鍛えるためのもの」と説明。法話は、利用者の表情や変化、その場の雰囲気などによって何を話すかを決めている。いずれも運動プログラムを始めるにあたって心を整えるために行い、時間は5分ほどだ。

 境内にはさまざまな散歩コースを作り、月2回、利用者全員で散歩している。「広大な敷地を散歩すると、緑がきれいで気持ちが良い。要介護者でも車にひかれる心配はないし、転んだとしても土の地面なので骨折する確率も低い」と森社長。「歩けるようになる」ことの確認にも使えるメリットがあるという。

お寺も地域包括ケアに

 ポラリスが四天王寺とこうした業務提携をした狙いについて、森社長は次のように説明する。

 「お寺は、どんな町や村にもあり、かつては住民の集会所や学校、医療機関、よろず相談所でもあるなど、地域コミュニティーの中心でした。国は現在、地域包括ケアシステム=用語解説=の構築を進めていますが、その役割を果たすのは、私は以前からお寺ではないかと考え、お寺と組んで何かできないかと模索していました」。紹介を受けて倉島住職と会い、意気投合して業務提携したという。

 デイを開設してまだ半年ほどだが、利用登録者数は現在38人で、ポラリスのほかのデイと比較すると「平均的」。内訳は、檀家6人、一般32人と一般が多い。

マシンで歩行訓練をしている利用者。ポラリスの独自開発という
マシンで歩行訓練をしている利用者。ポラリスの独自開発という

 利用者には短期と長期の目標を立ててもらっており、「最初の利用者の車いすの檀家さんの短期目標は、『歩いて本堂にお参りしたい』でしたが、1カ月ぐらいで達成しました。そうした例はたくさんあります」と、森社長は効果を語る。細かな調査・分析は、これから行う。

寺院モデルを広める

 今後の取り組みとしては、寺院らしい特徴を増やしていく計画だ。例えば、デイを利用して元気になった人たちは、境内清掃のボランティアなど健康促進と社会貢献を兼ねた活動を行う。精進料理や写経なども順次取り入れていく。

 さらに、境内の四天王寺会館を数年後に解体し、介護事業所を建てる計画にしており、ポラリスは、その介護事業も請け負う予定だ。「食事付き、お風呂付きの1日タイプのデイや短期滞在型のサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)を開設する計画」(森社長)という。

 短期滞在型のサ高住というのは、一般的なサ高住のように長期居住が目的ではなく、3~6カ月程度住みながら併設のデイを利用するタイプである。

 加えて、森社長は「倉島住職とは、お寺らしいデイの成功モデルをつくりあげ、そのモデルをほかのお寺にも広めていきましょうと話しています」と語っている。

「心身一如」を重視 倉島隆行住職の話

倉島隆行・四天王寺住職
倉島隆行・四天王寺住職

 近年は、高齢になると高齢者施設に入居される方が増え、自宅にあるお仏壇や、お寺にあるお墓にお参りする人が誰もいなくなる事態が起きています。それが、自立支援の取り組みによってお年寄りが元気になり、最期まで自宅で過ごすことができるようになってお参りを続けられれば、お寺にとってもとてもありがたいことです。

 自立支援型デイをお寺で行うからには、ほかのデイとは違う、お寺らしい利点が必要です。禅宗は『心身一如』を重視しています。心と体の健康が両立してこそ健康になれるということです。私は、心の健康を育むのがお寺であり、宗教者であると考えています。(談)

【用語解説】地域包括ケアシステム

 誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関や介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

塚本優が聞いた「お寺への要望」
塚本優が聞いた「お寺への要望」

 「塚本優と考える お寺のポテンシャル」では、福祉業界や葬祭業界を長年にわたって取材する終活・葬送ジャーナリストの塚本優氏が、お寺の可能性に期待する業界や、お寺のの先進的な取り組みを紹介します。

 

おすすめ記事

同じカテゴリの最新記事

error: コンテンツは保護されています