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福祉あるある

「太鼓のお姉さん」と音楽療法レク体験

2023年5月28日

 音楽療法士の田久保晶子さん(38)は、介護職歴19年。高校卒業と同時に介護施設に就職し、これまでに数えきれないくらい多くの高齢者支援を行ってきた。現在は特定入居施設で働く傍ら、休日は前職の有料老人ホームSOMPOケアラヴィーレ狭山(埼玉県狭山市)で音楽療法のボランティア活動をしている。「太鼓のお姉さん」として親しまれる田久保さん自身も、リフレッシュできるという音楽療法レク。いったいどういうものなのか。

音楽療法士の田久保晶子さん
音楽療法士の田久保晶子さん

 取材当日、田久保さんは楽器の入った大きな荷物を抱え、元職場にやってきた。1階のダイニングには、アップライトピアノが設置されている。田久保さんが楽譜と白板をセッティングすると、早くも参加を希望する入居者数人が自分の席を確保し、始まるのを今か今かと待ち構えた。

 午後2時。開始直前に一気に人が集まってきた。杖をついたり、手を引かれたりした入居者たちが、ゆっくりと椅子に腰かける。この日は比較的自立した人を対象にしており、70代から100歳まで幅広い年代の約20人が参加した。認知症の重い入居者や自分では動くことが難しい人を対象にしたレクは、別の日に設けているという。

 「では、今日もそろそろ始めましょうか!」と田久保さんの声が響く。1曲目は「世界の国からこんにちは」。白板に貼られた歌詞に沿って、「こんにちは、こんにちは、狭山からこんにちは〜」と替え歌で歌う。声を出すことで、だんだんと目が覚めていく入居者の様子が分かった。

歌いながら、椅子に座りながらできる体操を行う
歌いながら、椅子に座りながらできる体操を行う

 3曲目から軽い運動が入り、「あんたがたどこさ」を歌いながらグー、チョキと手を動かす。「さ」の部分だけ手拍子をすると、ぱちんと威勢のいい音がダイニングに響いた。マスク越しでも気合いの入った表情になっているのを感じる。

 田久保さんいわく「今日は皆さんテンションも高くて元気」とのこと。その日の天候や場の雰囲気に合わせてプログラムを決めていると話していた。

集団生活の疲れを音楽で癒やす

 集団生活をすること自体が久しぶりの入居者は多い。男性であれば、現役時代を終えてから20年ほど1人で過ごしてきた人もいる。女性の場合は学生生活を終えてから間もなく主婦になり、働いた経験もなく子育てと家事が人生のほとんどだったという人もいる。

 余生を有料老人ホームで過ごす人生になるとは、今よりも想像がつかなかった世代だろう。何らかの事情でわが家を離れ、全く新しい場所で生活をスタートさせることは、容易ではない。

 だが、音楽療法のレクは、集団だからこそ楽しい時間を過ごすことができる。大勢で歌って気持ちのよくなる曲、懐かしくなる回想法、心地よい安定したリズム…。これらによって、心身ともにケアされる。

太鼓をたたいて非日常を体験

冗談を言いながら一人一人に話しかける
冗談を言いながら一人一人に話しかける

 「次は楽器を使いましょう」と、田久保さんが韓国の太鼓プクを出してきた。その間に、レク担当の介護職員が、参加者に鈴や鳴子を配り歩いた。音楽療法レクの醍醐味である参加型プログラムだ。

 「東京音頭」「ソーラン節」と、リズムを取りやすい軽快な曲を歌いながら、参加者全員で楽器を鳴らす。大人気の太鼓は、一人一人の足元まで運び、音楽に合わせてたたいてもらう。たたいた後、少し恥ずかしそうにする入居者の表情がほほえましい。

 後半になるにつれて集中力が切れたり、疲れて歌わなかったりする入居者が出てきたが、田久保さんは歌い続けた。きれいな高音が響き、聞いてる分には楽しいが、なかなかハードだ。

 参加者の中に、認知症で怒りっぽく他の入居者とけんかになりやすいという男性がいた。自分の順番が来ると力強く太鼓をたたき、自分の出す音色に満足している様子が見られた。いろいろな心境の中で生活しているのだろう。

 1時間の音楽療法レクが終わると、入居者は一仕事終えたような表情を浮かべて、部屋に戻っていった。

生の音楽に越したことはない

シャンシャンとお祭りの雰囲気を感じる音がした
シャンシャンとお祭りの雰囲気を感じる音がした

 施設長の古賀佳鶴子さんに、田久保さんによる音楽療法レクの感想を聞いた。

 「ここ数年はコロナ禍でボランティアを頼めず、入居者さんにとって刺激の少ない毎日になっていました。音楽療法レクで少しでも楽しいひとときを過ごしてもらえたら。やっぱり生の音楽に越したことはないと感じますね」

 施設で働くスタッフにレクリエーションが得意な人ばかりだとは限らないため田久保さんの存在は貴重だと話していた。

 「自分の休みを使って月に2回もレク行うとは…」と感心しながら見学していたが、田久保さんは上手に楽しみながら、自身のストレス発散にもしているという。介護スタッフではなく「太鼓のお姉さん」として、元職場で活躍する日々が続く。

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