2022年9月1日 | 2022年9月1日更新
ある高齢者施設で、介護士が認知症の女性の入浴介助をしていました。普段はとてもおとなしい方なのですが、その時ばかりは違いました。
「痛たたたっ…!」
足元を洗っていた時でした。下を向いて作業に集中していたところ、頭に激痛が走りました。ものすごい力で、髪の毛を引っ張られたのです。
不意を突かれたのと驚いたのとで、必死に振りほどこうとしました。ところが、火事場の何とやらで、女性は若い成人男性かと思うほどの力を出して、離そうとしません。女性も必死だったのです。
思わず、介護士は言いました。「何でこんなことするんですか?! あなたのために洗っているんですよ」
すかさず、女性はこう怒鳴ったそうです。「うそつけ!」
たしかに、うそでした。きちんと介助はしています。でも、女性のために足を洗っていたのかというと、決してそうではありませんでした。「仕事」として、義務感で洗っていたことを見透かされたのです。
とはいえ、暴力を振るわれたわけですから、腹が立って仕方ありませんでした。「私は絶対にやりませんが、この時ばかりは施設で虐待事件を起こした人の気持ちが、分からなくもなかったです」
介護士は、勤務を終えて車で帰宅する間中、ハンドルを握りながら大声で叫び続けました。何度も、何度も。そうでもしないと、女性に対する怒りと、自分自身へのやるせなさが、収まらなかったそうです。