2024年5月24日
「何で、私の分だけないのよ!」
突然、老人ホームの中に大きな声が響きわたりました。
この老人ホームは要介護の人を入居対象にしていますが、「入居者には可能な限り自由な暮らしをしてもらう」ことをモットーとしており、夜9時の門限までに帰って来るのであれば、行き先を告げなくても自由に外出ができるのが特徴です。
この日は、街まで出かけた入居者が「ホームのみんなに」と、豚まんをお土産に買って帰りました。しかし数を間違えてしまい、1人にだけ行き渡らなかったのです。
もちろん、買った本人に悪気は全くありません。しかし、豚まんがもらえなかった入居者の怒りは収まりません。「私だけのけ者にしようとしている」「そんなことするはずないでしょ!」と、ついに大げんかが始まってしまいました。
これに対して、ホームのとった対応は「静観」。「けんかはやめましょう」と間に入るのは簡単ですが、お互いに「自分は間違っていない」と考えているのですから、途中でやめさせたら「ホームは私の言い分を聞いてくれなかった」という不平不満につながりかねません。
また、介護を必要としている人は「しようと思っていることができない自分」に対して、知らず知らずのうちにストレスを感じています。その「ガス抜き」をさせることも必要だろうと考えました。
「さすがに相手に手や足を出すようなら止めようかと思いましたが、けんかできるぐらいにエネルギーがあるのは、逆にいいことではないでしょうか」
しばらくの間2人は冷戦状態にありましたが、言いたいことを言ってすっきりしたのか、いつのまにか仲直りをして、今では楽しそうに会話しているそうです。