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インタビュー

橋渡しインタビュー

500人を爆笑させる介護エンターテイナー

2023年2月9日

 介護エンターテイナー®の石田竜生さん(39)は「人生のラストに『笑い』と『生きがい』を」をモットーに、エンターテインメント性の高いオリジナルのリハビリ体操を全国で行っている。過去に開催した介護予防イベントには500人を動員し、参加者を笑いの渦に巻き込んだ。お笑い芸人でもあり作業療法士でもあるという異色のキャリアで、レクリエーションに一石を投じ続けている。

 
笑顔で体操をする石田さん(提供写真)
笑顔で体操をする石田さん(提供写真)

 石田さんは1983(昭和58)年生まれ。転勤族の家庭で育った。子どもの頃からひょうきんな性格で、発表会では前に出て周りの人たちが笑ってくれる姿を見るのが好きだった。

 中学・高校生活を富山県で過ごし、大学は新潟県へ。兄と姉が看護師ということもあり、医療現場に関わる作業療法士の道を選んだ。

 一方で、「お笑い芸人になりたい」という夢もあった。大阪の吉本総合芸能学院に入学し、漫才コンビを結成。充実した日々だったが、パート勤務だった作業療法士の仕事と両立していくことに、中途半端さを感じていた。

 30歳になって、ボランティアで介護施設のレクリエーションを行った時のことだ。お笑い芸人というだけあって、笑いを交えた体操はその場で一気に盛り上がった。子どものように無邪気に笑う入居者を見て「お笑い」と「リハビリ」はつながると確信した。

「あはは!」と施設に笑い声が響く(提供写真)
「あはは!」と施設に笑い声が響く(提供写真)

 介護施設では、職場によっては介護士が交代でレクを行う。苦手な介護士にとっては、担当の日が迫ると憂鬱(ゆううつ)になることも珍しくない。人前に立って大きな声で話す機会がないと、気恥ずかしさが先に立つ。それに加え、レクの構成を自ら考えなくてはならず、負担に感じてしまう。すると目的を見失って、時間つぶしに簡単な体操を行ってしまう―という展開になりがちだ。

 石田さんはそうした介護士の現状もよく知っている。

 徐々に石田さんによるレクは評判を呼び、活動範囲は広がっていった。「うちの施設でもやってほしい」「職員に向けて教えてほしい」。そうした機会が増えたため、活動を本格化させた上で「介護エンターテイメント」を商標登録した。

 最近は一般企業でもセミナーを行うことがある。飲食店などで、認知症の高齢者がお店に入店した際の対応なども講師として伝えている。福祉の現場では当たり前の内容も、畑違いの場では目からうろこの情報として重宝される。

「たつ婆」が心をつかむ

 お笑いと作業療法士の知識を生かし、石田さん独自のスタイルで行うレクには、個性的なキャラクターが現れる。白髪のお団子頭のかつらをかぶった石田さんが「たつ婆(ばあ)」としておばあさんに扮(ふん)し、出だしから思わずクスッと笑ってしまう姿で登場する。

たつ婆の姿に場の雰囲気が和む(提供写真)
たつ婆の姿に場の雰囲気が和む(提供写真)

 石田さんが養成所で教わった「漫才から学ぶ四つの公式」では「つかみ」、「動機付け」、「本題」、「締め」があると話す。たつ婆の姿でまず参加者の心を「つかみ」、興味を持ってもらうことで「本題」の体操につなげることが大事なのだという。
 
 そんな石田さんも、最初の頃は目の前にいる参加者が興味を示さないまま座っている姿を目にすると、難しさを感じたと話す。

 「世の中全ての人が興味を持つものは存在しません。それでも、その場にいてもらうことが大事。今日は体操が嫌でも『明日からやってみるか』という気持ちになってもらえるかもしれないからです。体が動いていなくても、心が明るくなってもらえるよう意識しています」

 各地でレクを行うだけではなく、「リハレクトレーナー養成講座」を開講した。受講者は福祉従事者が多く、明日から即実践できるリハビリにつながるレクを学べる。

全国各地でのセミナー風景(提供写真)
全国各地でのセミナー風景(提供写真)

 「目的を明確にしないと、レクを苦手に感じてしまう介護士もいます。例えば、なぜ歩くリハビリをするのかというと、『今』だけではなく3カ月後も元気に歩行できるためなんです」。お年寄りに筋力がつけば、職員の業務負担を減らせるかもしれない。互いにいい影響が現れるので、後々役に立つという意味で「時間軸をずらして考えてほしい」と呼び掛ける。

 講座でレクの目的を言語化し理解が深まれば、今まで何となくやっていたことがクリアになり、職員と入居者双方にとって、レクに向かう気持ちが良い形へと変化する。

オンラインでつながる体操

 最近は、動画投稿サイト「ユーチューブ」での体操動画配信や講師活動に重点を置いている。作業療法士としての活動は、人手が足りないときにヘルプで入る程度。自分の得た知識や技術を惜しみなく伝えていきたいと考えている。

 新型コロナウイルス感染拡大で特に力を注いでいるのがユーチューブだ。全国の施設で動画を流し、画面を通して石田さんが体操を教える。90代も参加しているという。

 動画を作るこつは、常に目の前に利用者さんたちがいることを想像しながら撮影に臨むこと。その中でも自宅で1人で過ごす人に向けた体操を意識しているという。

レクが終わる頃には体も心もぽかぽかに(提供写真)
レクが終わる頃には体も心もぽかぽかに(提供写真)

 「独居で暮らし、公民館などでの体操に行けない人や、移動手段がなくて動けない方が楽しめる動画にしたいと思っています。ユーチューブで世界中の皆さんに健康を届けたいですね」と、思いをはせる。

 ネットで体操のDVDも販売している。生活の中で気軽に取り組める体操や、100円ショップの商品でできる体操など、石田さんがこれまで行った数々のレクの集大成となる映像が収められている。

 今後は大阪を中心に、介護・医療に携わる人たちが集って活動できるお寺のような場所をつくりたいという。「介護に携わる全ての人にとって、心地いい空間を生み出す人こそが、真のエンターテイナー」。石田さんは、そう考えている。

 

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