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インタビュー

橋渡しインタビュー

音楽を通せば、介護が見える ゆうきさん×藤さん

2024年5月26日

 福祉仏教 for believeの「橋渡しインタビュー」に登場した介護士兼ミュージシャン同士の対談が実現した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=患者の「たか」とユニットを組む「たか&ゆうき」の「ゆうき」こと石川祐輝さん(41)と、シンガーソングライターの藤良多さん(38)。それぞれの場所で学生時代から音楽に打ち込み、介護福祉士・生活相談員として、地域で暮らす高齢者の介護支援を行っている。 今回は「音楽を通して見る介護現場」について語ってもらった。 (飯塚まりな)

写真①アイキャッチ兼用 zoom
キャプ 左上から時計回りにゆうきさん、筆者、たかさん、藤さん
左上から時計回りにゆうきさん、筆者、たかさん、藤さん

介護現場における「最高の名曲」

――現在働いている施設で、どんなお仕事をされていますか。

ゆうき 地域密着型デイサービス琴平(埼玉県所沢市)で生活相談員をしています。定員10人の小さな古民家で運営していて、場所は市の中心地にあります。食事に力を入れている施設で、僕らも同じ食事を味わって、日記のようにSNSに上げるのが楽しみですね。

藤 僕は、社会福祉法人北養会の特別養護老人ホームもみじ館(水戸市)にあるデイサービスの生活相談員です。11年間介護現場にいますが、1年前に現在の職場に転職して、ようやく120人ほどの利用者さんの名前と顔を覚えられました。普段は利用者さんの自宅にお邪魔して、契約や担当者会議を行っています。かと思えば入浴介助などもあって、その時々によって仕事内容が変わります。

――同じデイサービスでもだいぶ違いますね。音楽活動は現場で取り入れられていますか。

ゆうき 普段から音楽療法インストラクターの活動をしているので、デイサービスでも歌いますし、月3回は定期的に外部の福祉施設に有償ボランティアとして行って、ギターを弾きながら童謡や歌謡曲を歌っています。介護という職業で、好きな音楽を取り入れられるのはうれしいです。

藤 ゆうきさんの活動を聞くとうらやましいです。今、僕がいる施設では「カルチャースタッフ」といって、職員にピアノの先生がいます。「荒城の月」など昔ながらの唱歌やワルツを弾いてくださって、僕もギターやカホンで加わるときがあります。利用者さんの見守りを兼ねて参加する感じです。

――介護現場で歌う曲でおすすめはありますか。

ゆうき 21歳のときに病院に勤めていて、リハビリのレクリエーション担当だったんです。99歳の患者さんが亡くなる1週間前、僕が病室でギターを弾いて「ふるさと」を歌ったんですよね。涙を流して喜んでくださって、僕自身もすごく感動したんですよね。あれは、今でも忘れられないです。

藤 分かります。「ふるさと」はすごいですよね。僕も介護士になって初めて特養で働いた頃、全く名前を覚えてもらえなかった認知症の女性の前で、「ふるさと」を弾き語りで歌ってみたんです。それ以降、亡くなるまで「ギターのお兄ちゃん」と呼んでくれて、うれしかったですね。「ふるさと」は歌詞を見なくてもその場にいる全員が自然と口ずさめる、最高の童謡です。

ゆうき 情景が浮かぶ素晴らしい曲ですよね。僕は、10歳でギターに触れて、多感な時期に尾崎豊やビートルズの曲や歌詞に救われてきたから、おこがましいですけど、自分でも音楽で誰かを励ますことができるんじゃないかなと思っています。

藤 僕の原点は、高校の文化祭で始めたバンドです。介護職の前は、音楽活動に専念するために休みが取りやすいパチンコ店で働いていました。「明日の夕飯代なのよ」と言って年金をつぎ込む高齢のお客さん方を見て「本当にこの人のためにできることは何か」と考えていましたね。音楽の先に介護があった人生です。

写真② 青空背景 ゆうきさん
キャプ ポップな曲作りをするゆうきさん 
ポップな曲作りをするゆうきさん

「面白いことにどんどん挑戦」藤さん

――職場以外の音楽活動について教えてください。

ゆうき 藤さんは、茨城のご当地アイドルのような存在なんですよね。

藤 僕はシンガーソングライターで、休日は水戸市を中心に歌っています。昨年はワンマンライブを開催して、「観客200人超えになったら、バンジージャンプをする」と自ら宣言したり、ぶっ飛んだことをやっています。200人を超えたので、怖いですけど、今のところは7月に茨城で有名な竜神バンジーで飛ぶ予定です。今年はラジオパーソナリティーをやりますし、介護現場以外でも面白いことにどんどん挑戦しています。

ゆうき 楽しそうですね、僕はデイサービスで知り合ったALS患者の「たか」(古内孝行さん)と、3年前に音楽ユニット「たか&ゆうき」を結成しました。所沢市や難病患者のコミュニティーに参加し、今まで以上に歌うチャンスをたくさんもらいました。彼がいるから僕は音楽活動の幅が広がり、創作意欲が湧いて助けられています。彼は、病気になる前はギターを弾いて曲作りもしていました。今は体が動かないので、僕というフィルターを通して曲作りをしていて、お互いに支え合っています。

藤 たか&ゆうきは他では類を見ないユニットですよね。全国の介護現場を探しても、いないと思います。動画を拝見しましたが、2人の関係性が素晴らしくて、美しいんですよね。信頼関係があるからこそ、響いてくるものがあるんでしょうね。

ゆうき ありがとうございます。僕らのような形でも、何かやりたい、好きなことを発信していきたいと思う方が増えて、自然と活躍できる世の中になってもらえたらと思います。

――介護職の常勤でありながら、音楽活動の報酬はいただいているのですか。

ゆうき はい。以前の職場は副業が禁止でしたので、活動したくても難しかったのですが、今の職場は理解があり、積極的にCDなどの物販を行って、生活費の一部にすることができています。

藤 僕も同じで、前職では給料以外の報酬は受け取れませんでした。今の職場は、初めから音楽活動を承知の上で採用していただいたので、自由に動けています。逆に僕の特技を生かして、施設の音響を見てもらえないかと頼られることもあります。いい環境です。

「現場で自分自身を進化させる」ゆうきさん

――お二人は介護士歴10年以上ですが、最近になって変わってきたと感じることはありますか。

ゆうき 以前は明治生まれの利用者さんがいましたが、僕も40代になり、自分たちの親世代の方々がデイサービスに通所されるのを見て驚きます。ということは、音楽レクも以前と同じ曲ばかりを歌っていられないわけで。これからは今の60代、70代の方に喜んでもらう歌を練習しなくてはと思います。自分自身を進化させなくちゃいけないですね。

藤 今までは、利用者と僕ら世代の介護士の間には「祖父母と孫」くらいの開きがありました。ここ最近は「親子」ほどの年齢差になり、これまでとは違う対応能力が求められていると思います。団塊の世代が、病気や障害で自分の老いと向き合うとはどういうことなのか。私たちはどう寄り添えるのか。心身共に安心して任せてもらえる介護士にならなくてはと思いますね。

写真③ 藤さん
キャプ ステージの上でスポットライトを浴びる藤さん
ステージの上でスポットライトを浴びる藤さん

ゆうき あと最近、20代の若い介護士と利用者さんとのコミュニケーションも変わってきたと感じます。皆さんまじめでいいとは思いますが、学校の教科書通りの会話をしている人が多い印象です。もう少し肩の力を抜いて話してもいいのにな、と。

藤 僕も同じように思います。礼儀正しい人が多いのはいいことですが、例えば食事一つ運ぶにも「◯◯さん、今日はカレーです」と、最低限の言葉で話しかけている感じがします。本来は「◯◯さん、今日は具だくさんのカレーでおいしそうですよ、召し上がってくださいね」というような、滑らかな会話が大事だろうと。介護現場は会話のキャッチボールがすごく大事ですから。

ゆうき 確かに、初任者研修などで学ぶ「尊厳の保持」や接遇のマナーは重要で、言葉遣いも利用者さんに対して敬語は当たり前ですが、実際に現場で習ったことをそのままやるだけではなく、信頼関係を築く上で自分の中で「砕く」部分を見つけていってほしいですね。
 
藤 利用者さんは人生の大先輩です。こちらが気配りする立場なのに、中には利用者さんが、私たち介護士に必要以上に気を使っている場面をたびたび見かけます。晩年になられてまで、気疲れさせないよう努めていきたいですね。

――今後の介護現場を担っていくうえで、どんな希望を持たれていますか。

ゆうき 自分が学んできた介護技術を下の世代に伝えていきたいと思うようになりました。また、重度訪問介護の研修も受けたので、いつでも現場に入れるよう準備しています。デイサービスで働きながら両立するのは大変かもしれませんが、試してみないと分からないので、今のうちにやれることをやろうと思います。理想としては、もっと市や県の介護研修を受けて、勉強したいですね。現在、活躍される方々の話を聞いて学びたいです。

藤 学ぶといえば、僕の住む県では「いばふく」といって、茨城から福祉で世界を元気にするプロジェクトを運営しています。僕もスタッフの一人で、2016(平成28)年からさまざまなゲストを全国からお呼びして、研修会やイベントを実施しているんです。社会課題に向き合い、福祉を通して茨城を盛り上げようという大きな取り組みです。「茨城の福祉やべー」って言ってもらえるように頑張っています。この「やべー」はネガティブな言葉ではなく「福祉で働くなら茨城だ」「福祉が充実しているなら茨城に住もう」というようなポジティブなイメージです。

ゆうき いいですね、たか&ゆうきも呼んで欲しいです! 「藤さんに会いに、茨城まで行くか」とすでに2人で話しています。

藤 ぜひ! 今回の取材でこうして知り合えましたし、いずれ何かの形でつながりたいです。「埼玉の福祉やべー」をつくれるかもしれません。一緒に介護と音楽で、明るい現場をつくっていきましょう。

 

【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)

全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。

新しい音楽活動の拠点を見つけて たか&ゆうき

介護+「好きなこと」を大切に 藤良多さん

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