2022年10月30日 | 2023年6月9日更新
※文化時報2022年10月25日号の掲載記事です。
ひきこもりの子や障害のある子の親たちにお寺でリラックスしてもらおうと、神奈川県逗子市の高野山真言宗佛乘院(齋藤真佑住職)は16日、「お寺で休息~親あるあいだの語らいカフェ」を初めて開いた。支援者を含む約20人が参加し、海を眺めたり箏(こと)の調べに耳を澄ませたりしながら、心安らぐひとときを過ごした。
佛乘院は、一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(小野木康雄代表理事)の支部を開く寺院の一つ。「お寺で休息」は、ひきこもりの当事者・家族支援に取り組む逗子市社会福祉協議会と共催し、隣町の葉山町社会福祉協議会や不登校・ひきこもり相談に当たる支援者団体から協力を得た。
この日はまず、鎌倉を拠点に活動する箏演奏家、高橋てるみさんのミニコンサートを本堂で開催。「六段の調べ」や「秋のうたメドレー」などが披露され、穏やかな音色が堂内を包んだ。
続いて参加者らは、海の見える客殿に集まり、逗子市社会福祉協議会の職員らの司会で輪になって、3時間近く懇談。個別に話のある人たちは、齋藤住職や僧侶らと、本堂や屋外のベンチなどでじっくりと話し込んでいた。
当事者の家族からは「私のための場所だと思った」「自分だけじゃないのだと思えた」などの感想が聞かれた。「お寺で休息」は、今後も継続して行われる予定。
お寺と教会の親なきあと相談室に協力して支部を開設した寺院は、全国8カ所を数える。このうち相談できる催しを定期的に開いているのは、真言宗泉涌寺派城興寺(上原慎勢住職、京都市南区)と浄土宗願生寺(大河内大博住職、大阪市住吉区)だ。
城興寺は「親あるあいだの語らいカフェ」を今年6月から3カ月ごとに開催。願生寺は8月を除く毎月第2月曜に、まちの保健室=用語解説=や介護者カフェ=用語解説=と親なきあと相談室を同時に行っている。
当事者や家族にとっては、定期的に催しがあればいつでも相談に行けるという安心感につながる。このため、両寺院とも継続して実施することを目指している。
佛乘院の場合、継続に向けた大きな推進力となるのが、社会福祉協議会と支援者団体のサポートだ。いずれもお寺の持つ場の雰囲気などに可能性を見いだしている。逗子市社会福祉協議会の飯島かんなさんは「居場所づくりに取り組む中で、お寺という安らかな空間を活用させていただけるのはありがたい。いろいろと会話が弾んで良かった」と振り返った。
不登校・ひきこもり専門の民間相談機関「ヒューマン・スタジオ」(神奈川県藤沢市)の丸山康彦代表は「幸先良いスタート。1回目としては大成功だった」と称賛。「会議室などと異なり、お寺の雰囲気は『支援を受ける』という堅苦しさや『アドバイスを生かさねば』というプレッシャーを取り除いてくれる」と語った。
その上で「宗教は日々の生活を支えている。常設で24時間対応できる宗教施設がひきこもり支援に進出するのは、大変意義深い」と期待を寄せた。
佛乘院の齋藤真佑住職は「やって良かった。参加者の皆さんから『続けてほしい』との声を頂いており、社協の方々とも相談しながら次回を開催したい」と話していた。
【用語解説】まちの保健室
学校の保健室のように、地域住民が健康などさまざまな問題を気軽に相談できる場所。図書館や公民館、ショッピングモールなどに定期的に設けられ、看護師らによる健康チェックや情報提供が行われる。病気の予防や健康の増進を目的に、日本看護協会が2001(平成13)年度から展開している。
【用語解説】介護者カフェ
在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行い、孤立を防ぐ活動として注目される。