2024年11月21日
福祉仏教for believeで人気の音楽ユニット「たか&ゆうき」が、またまた地元・埼玉県を飛び出した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=患者の「たか」さんこと古内孝行さん(44)と、介護福祉士の「ゆうき」さんこと石川祐輝さん(42)が向かった先は、栃木県宇都宮市。イベント「ALS患者さんに聞こう!自分をプレゼン!」に参加したのだ。(飯塚まりな)
県をまたいでの長距離移動は今回で3回目。「今年は名古屋、船橋、宇都宮と順調に外出できている」と、たかさん。現在は体調が安定しているため、積極的に活動が行えている。
10月6日にJR宇都宮駅前のライトキューブ宇都宮で開催された第11回「自分をプレゼン!」には、ALS患者4人が登壇。日頃の活動や挑戦について発表した。
来場者100人余りに加えて、オンラインでの参加者を含めると、合計約270人が集まった。イベント中にはどこからともなく吸引の音が聞こえ、1人の患者に対して数人の介助者がサポートする風景があちこちで見られた。
ゆうきさんは重度訪問介護員として手際よく、トイレ介助や車いすでの移動を行った。今回はボランティアの女性が1人加わり、3人での外出だったが、ゆうきさんは「介助者としては、もう少し人手がほしい」と本音を漏らした。
発表者の中で2人が特に印象深かったのは、群馬県に住む町田玲子さんだったという。町田さんは気管切開をしたが、「食道発声法」で声を出そうと練習を続けている。
食道発声法とは、少しの空気を口や鼻から吸って食道に送り込み、ゲップと同じ要領で声を出す方法だ。
発表の最後に町田さんが実演してみせると、多少聞き取りづらい部分はあったものの、しっかり声として聞こえていた。「実際にやっている人がいて、すごいなと。希望が持てました」と、たかさんにとっては新たな発見だった。
登壇した4人とは別に、プレゼンター役を務めた鈴木諭さんは、4年前にこのイベントでプレゼンをした経験がある。ALS患者であり、娘を持つ父親でもある鈴木さんは、たかさんと他のALS患者たちをつないだ人物でもある。
たかさんは2019年にALSを発症し、動ける間に家族で旅行へ行きたいと願ったものの、コロナ禍でしばらく家から出られない日々を送った。その間に病気の進行が進み、歩けなくなっていく自分を悔やんだ。
薬の効果を調べる治験を受けていたが、思わしくない結果で落ち込んでいたこともあった。そんなとき、妻の一美さんが会員制交流サイト(SNS)で鈴木さんと連絡を取り合った。たかさんは鈴木さんに励まされ、患者会に参加し、周囲と交流するようになった。
「今はこうして、ALS患者さんたちの前で歌えるようになれた」と、たかさん。コロナ禍で外出できなかった時間を取り戻そうとしている。
イベント終了後、たか&ゆうきは会場で3曲を披露した。15分という短い時間だったが、多くの人が残って手拍子をしてくれた。
途中、涙を流す観客がいた。ALS患者の家族で、2人の歌を聞きながら込み上げてくるものがあるようだった。「みんな同じような思いを抱えている、先のことを考えると不安だけど、歌にしていきたい」と、たかさんは意を強くした。
たか&ゆうきを追いかけて3年。埼玉県所沢市での大々的なコンサートや、たかさんの肺炎での入院など紆余(うよ)曲折はあったが、2人は音楽を通してどんなことも乗り越えてきた。
ゆうきさんは現在、たかさんの訪問介護に入った次の日、夜勤明けの午前中に2人で練習を行っている。少しの時間を見つけては、大好きな歌を作り続けているという。
たかさんに改めて、現在の心境を尋ねた。
「以前は、自分の声を残したいと思っていたけど、今はそれ以上に思うことがある」と語った。自分と同じ病気を発症し、今ひきこもりがちな人たちへ伝えたいことがあるという。
病気になっても、できることはきっとある、と。
「家にひきこもったときの気持ちはよく分かります。でも協力してくれる人たちがいて、チャンスがあることを知ってほしい」
【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)
全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。