2022年11月23日
介護現場で働く人の中には、さまざまな特技を持つ人がいます。音楽をやっていたり、お笑い芸人の卵だったりした人は、施設のレクリエーションなどで大活躍することが珍しくありません。
イラストや漫画が得意という人も大勢います。会社のパンフレットを漫画仕立てにしたり、館内表示をイラストにしたりと、親しみやすさや明るい雰囲気を打ち出したい会社や施設にとっては、とてもありがたい存在です。
ある介護施設で働くAさんも、以前は漫画家のアシスタントをしていた経験があり、絵には自信がありました。
「Aさん。似顔絵は書ける?」
ある日、施設長が話しかけてきました。
「書けます。高校時代は友達の似顔絵をよく書いていました。『似てる』と評判でした」
「今度から、ご入居者さまの米寿や卒寿のお祝いの品に、似顔絵をつけたら喜ばれるかと思ってね。じゃあ頼めるかな?」
「はい。頑張ります」
やがて、1人の女性入居者が米寿を迎えました。初めてとあってAさんが特に丁寧に仕上げた似顔絵を見て「うわ~そっくり~!」と施設内のあちこちから歓声が上がりました。ただ1人を除いて…。
唯一笑っていなかったのは、似顔絵を描かれた本人でした。確かに似顔絵はとてもよく似ていました。しかし、似過ぎていて、皺など老いを感じさせる部分までしっかりと再現されてしまっていたのでした。
「その時初めて『お年寄りを描くときは、あまりそっくりに描いてしまうと、かえって本人を傷つけてしまう』ということに気が付きました」と語るAさん。その後は「見た目から20歳ぐらい若く」をイメージして似顔絵を描いているそうで、今では「早く私の番が来ないかしら」と楽しみにする入居者も多いとのことです。