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インタビュー

橋渡しインタビュー

どんな子も笑顔になるプール教室 安田まりんさん

2024年2月16日

 「水泳を通して子どもたちに寄り添いたい」。元水泳選手の安田まりんさん(32)は、その一心でNPO法人ベースプラス(東京都品川区)を2013年に立ち上げた。現在は東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪で、知的障害や精神障害のある子を含む小学生たちを対象に、水泳教室を開いている。選手時代に感じた苦悩を乗り越え、強さよりも楽しさを求めるようになったという安田さん。思いに共感した全国のコーチたちが、子ども一人一人と真剣に向き合い、水泳を通じて心を通わせている。

 子どもの習い事で人気の水泳。民間のプール教室では、子どもたちが同じ水着を着て正確な泳ぎを教わりながら、級を上げるためにタイムを縮めることを目標にしている。

写真① プールで教えるまりんさん
キャプ 子どもたちのペースで泳ぎを教える安田まりんさん
子どもたちのペースで泳ぎを教える安田まりんさん

 一方、ベースプラスが行っているのは子どもの年齢、性別、家庭環境、泳力にかかわらず誰もが楽しく練習できる少人数特化型水泳教室。個人レッスンや4〜5人の少人数で開催している。

 皆が参加したくなる居場所を目指しており、不登校で集団生活が苦手な子、軽度の障害がある子、過去に溺れた経験があり水を怖がる子など、いろいろな子どもたちがやってくる。

 泳げなかった子が水泳を好きになり、成功体験を積み重ねながら自信をつけてもらうことにやりがいを感じるという安田さん。「感動の毎日です」と語る。

写真② ビート板で泳ぐ子ども
キャプ プールでは子どもたちの歓声が響く
プールでは子どもたちの歓声が響く

 もちろん全員がスムーズに泳げるようになるわけではない。プールに入っても、泳ぐという行為自体を嫌がる子もいる。そんな日は「おしゃべりしながら歩こうか」「今日は遊ぼうか」などと子どもの思いをくみ取りながら、一緒に過ごすことを重視している。

 「泳ぎたくなければ泳がなくてもいい」と話す安田さん。学生時代に好成績を収め、スパルタ教育を受けてきた水泳選手の発言とは思えないほど、子どもに寄り添っている。

水泳が嫌いになった選手時代

 安田さんは1991年2月生まれ。埼玉県川越市出身。3歳から水泳を習い、中学3年の時にジュニアオリンピックで全国7位、高校2年で日本選手権や国体に出場するなど、華々しい成績を残していた。

 だが、日本女子体育大学へ進学してからは状況が変わった。厳しい指導の中、0.1秒でもタイムを縮めようと今まで以上に必死に泳いだ。それでも成績が伸びず、選手として危機感を覚えるようになった。

写真③ 後ろ姿で立つ子ども
キャプ 子どもたちの成長を親もコーチも優しく見守る
子どもたちの成長を親もコーチも優しく見守る

 「スポーツは成績で全てが決まるので、結果が出なければ周りからも置いてけぼり。だんだん疎外感を感じ、長年続けてきた水泳が嫌いになりました。朝起きられず吐き気が止まらなくなるなど、薬を処方されるほどでした」と当時を振り返る。

 悩んだ末、安田さんは18年間の選手生活に終止符を打った。その後はスポーツ心理学研究室で学び、水泳部ではマネジャーとして動いた。

やるべきことを見つける

 卒業後、臨時で中学の体育教諭になった。ある日、プールの時間になると突然休んだり、見学したりする生徒が増えることに気がついた。

 「普段は体育が好きなのに、プールの日は休んでいるのを見て残念な気持ちになりました。泳ぐことの楽しさを知らない子どもたちを見て、水泳から離れていた大学時代の自分と重なって見えました」

 水泳は特殊かもしれないが、みんなが笑顔になれるスポーツだと安田さんは信じている。

写真④ 指導するコーチ
キャプ 泳げる自信が笑顔をつくる
泳げる自信が笑顔をつくる

 知り合いのつてで、個人レッスンを引き受けた小学5年の男子児童に泳ぎを教えると、見学していた母親が泣いていた。

 事情を聞くと、その子は以前サッカーをやっていたが、いじめを受けてしまい、家族で引っ越したのだという。だが、環境を変えても転校先の学校にはなじめず、不登校になっていた。

 「お母さんは『久しぶりに息子の笑顔を見られた』と泣いていたんです。徐々に泳げるようになり、自信もついて、その後はプールのある日は自分から学校に通っていました。変化に驚いて、やりがいを感じるようになりました」

 自分のやるべきことが明確になった安田さんは、さまざまな環境にある子どもたちのために水泳を教えようと決意。タイムや距離を求めず、どの子も気持ち良く泳いで、子どもらしさを発揮できる居場所をつくろうと考えた。

 子どもだけでなく、習わせる親にも負担をかけたくないという思いがあった。

 「経済面で習い事ができないお子さんはたくさんいます。ベースプラスでは、区の後援を受けてワンコインでイベントを開催し、公立小学校で水泳授業のサポートも行っています。生きていく上で、自分の身を守るために、泳げるすべを身に付けておくことは大切。みんなが平等に泳げるようになってもらえたらうれしいです」

 学生時代の選手仲間に声をかけ、一緒に仕事をしているほか、活動に賛同してコーチになる元水泳選手は続々と増えているという。

写真⑤ 女の子1人
キャプ 子どもだけでなく、子育て中のコーチにも居心地のいい教室だ
子どもだけでなく、子育て中のコーチにも居心地のいい教室だ

 一般の水泳教室は、平日の夕方からが一番コーチが必要とされる。でも、家庭で子育てをしている女性はなかなか夕方以降に家を空けられず、子どもたちのコーチにはなれない。

 能力や実力があっても勤務時間がネックになることが多い中、ベースプラスでは個人レッスンだと曜日や時間を調整できるので、働きやすいのもメリットだという。日中に子どもたちに泳ぎを教え、夕方に帰宅できるならと引き受けている女性コーチは多い。

 「みんな友達、みんなハッピーが私のモットー。子どもも親御さんも、コーチ陣も楽しく過ごせるように、活動の幅をもっと広げていきたいです」

写真⑥ 子どもに声をかける安田さん
キャプ 安田さんの明るさとエネルギーに、周囲の期待も膨らむ
安田さんの明るさとエネルギーに、周囲の期待も膨らむ

 安田さんは今後プールにこだわらず、海や川など自然の中で水に慣れるプランをつくる予定だ。水は生活のさまざまな場所にある。何もプールの中だけで教えなくてもいいのではないか、と自由な発想で将来を思い描いていた。

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