2022年11月16日
「ホーム長が交代すると、ホーム全体の雰囲気もガラリと変わる」ということは少なくありません。それまで就業規則やマニュアルをないがしろにしていたスタッフの行動が改善されるなど、良い方向に変わることもあれば、「意味のないミーティングばかり増え、利用者に寄り添う時間が少なくなった」など、悪い方向に変わることもあります。それだけに、ホーム長の交代は、スタッフ・入居者双方にとって一大事ともいえます。
ある会社が高級有料老人ホームの運営を承継しようとしました。ホーム長を務めているのは、社長の親族の女性でした。社長が経営権を手放せば、ホーム長もお役御免になるのがごく自然な流れといえます。
しかし、このホーム長はスタッフ・入居者から絶大な人気がありました。「ホーム長を変えないでほしい」という声があちこちから上がりました。高級ホームですから、入居者は多額の資産を持っています。「ホーム長を守るために自分たちでお金を出し合って、新会社の代わりにホームを買い取ったらどうだ?」という案まで出るほどでした。結局、「ホーム長は変えない」ことを条件に、入居者はホームの運営者が変わることを了承しました。
さて、こうして前社長の親族がその後もホーム長として指揮を執り続けました。しかし、年齢的なこともあり、いつまでもというわけにはいきません。やがてホーム長が勇退することになりました。すると入居者のうちの何人かが「ホーム長が変わるなら、ここで暮らす意味がない」と、ほかの有料老人ホームに転居してしまったのです。転居先のホームは同様に高額で、業界内での評価も高いものでしたが、建物は古く、立地もそれまでに比べて決して良いものではありませんでした。
それほどまでに入居者に慕われるのはホーム長冥利(みょうり)に尽きます。しかし、企業にとって異動や退職は避けて通れません。それに合わせて利用者まで移動してしまうのは、大きなリスクといえそうです。