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福祉あるある

手話で心も脳も元気 新しいレクの形

2023年6月19日

 高齢者のレクリエーションに、手話を取り入れている施設がある。介護付き有料老人ホームSOMPOケアラヴィーレ狭山(埼玉県狭山市)。介護福祉士として働くレク担当の市川美和さん(51)が手話サークルをつくり、月に1度、入居者に教えているという。どんなことをしているのだろうか。

 「皆さん、こんにちは。今日も手話サークルを始めます」。市川さんが手話であいさつをすると、それに倣って入居者が手を動かした。

 この日は女性の入居者のみ10人ほどが参加。みんな穏やかな表情をして座っている。

 市川さんがホワイトボードに「わたしの趣味は〇〇です」と手書きした水色の模造紙を貼り出した。「読書」「編み物」「音楽鑑賞」などの単語も並べてある。「自分の趣味を手話で表現する」をテーマに、1年かけてじっくり覚えていくのだそうだ。

「釣りをしましょう」と魚を釣るしぐさを見せた
「釣りをしましょう」と魚を釣るしぐさを見せた

 この模造紙を作る際には夫も手伝ってくれたそうで、市川さんは「うちの主人のおかげできょうもレクができるんです」と、のろけ話で入居者を和ませた。

 手話にはイメージで伝える表現と、50音の指文字がある。この日は「釣り」を例にレッスンが進んでいく。

 「私の友達に釣りが好きな人がいるんですが、釣りってイメージがとても大事らしいですよ。手話もイメージが大切なので、魚を釣っているところを想像しながらやってみましょうか」

 市川さんはそう言うと、釣りざおを投げているようなしぐさを、手話でやってみせた。両手の人差し指を伸ばしてつなぎ合わせ、振り上げて表現する。入居者たちもゆっくりまねをしていた。

 「みなさーん、どんな魚が釣れましたか?」と市川さんが聞くと「タイが釣れた!」「私はイワシ!」と口に出す入居者がいて、フロアが笑いに包まれた。ふと気付くと、施設長も後ろの方で一緒に参加している。

「翼をください」にかけた思い

 後半はカラオケの機械で「翼をください」を流しながら、入居者たちと歌詞に手話をつけて歌った。市川さんは意味をていねいに伝えながら、一つ一つの動きを大きく見せる。手の動きがみんな滑らかだ。

「翼をください」は思い入れのある手話ソング
「翼をください」は思い入れのある手話ソング

 「翼をください」は長期間練習を重ねており、昨年12月のクリスマス会で披露する予定だったが、新型コロナでクラスターが発生して会が中止となってしまったという。

 そんなとき、入居者の女性Aさんが、入院先から施設へ戻ってきた。

 Aさんは元フラダンスの講師。自分が前に出るよりも、裏方に回りながら生徒の発表会を見守ってきたのだろう。手話サークルのクリスマス会もずっと気にかけていたが、退院後はすっかり意欲をなくしていた。

 入院中は「翼をください」をみんなが発表している姿が夢に出てきた、とAさんは話していた。それほどまでに思っていてくれたことに感銘を受けた市川さんは、施設長に掛け合い、急遽年末に発表会を行ったという。

 「私たちが衣装を着て発表会をすれば、手話サークルの方たちだけでなく、Aさんも元気になってくださるかもしれない。そう思って、いろんな職員に声をかけて実現しました」。市川さんはうれしそうに振り返る。

 発表会の当日、Aさんは一番前の席に座った。始まる前には手話サークルのメンバーに手作りのブローチを渡した。出演するメンバーはうれしそうに、思い思いにブローチを身に着けて本番に臨んだという。

 そして全員、無事に年を越すことができた。

友達と話したかった

 市川さんは、なぜ手話を覚えたのか。

 「20代のころ、ろう者の友達がいました」。市川さんはそう切り出した。高校生の時に参加したボランティア養成講座でも、興味があって手話に接したものの、本格的に覚えられたのはその友達のおかげだった。

「おはよう」の手話は、枕を下げて起きるイメージ
「おはよう」の手話は、枕を下げて起きるイメージ
「おはよう」の手話は、枕を下げて起きるイメージ
「おはよう」の手話は、枕を下げて起きるイメージ

 友達は妊娠中だった。知り合ってまもなく、入院することになり、市川さんは手話の本を買ってお見舞いに行った。どうしても話がしたいと、必死に覚えたという。

 「彼女は耳が聞こえないだけでなく、視力も落ちてしまい、あまり見えていませんでした。なので50音の指文字を顔の近くで見せて、なんとか会話をしていたんです」

 お互いに言いたいことが分からないときは、市川さんが「ちょっと待って!調べるから」と、ベット脇で本を開いて調べていた。

 友達は無事出産したが、引っ越しをしてしまい、残念ながら今はどこに住んでいるのか分からない。

 そして市川さんには、手話が身に付いた。コンビニでアルバイトをしていたときは、聴覚障害のあるお客に「お弁当温めますか?」と尋ねることができた。今では介護の現場でレクリエーションに取り入れ、多くの入居者に伝えている。

 「入居者さんには、手話を覚えるというよりは、指の体操で脳を活性化させることを目的にしています。自分の興味のあることを、手話で表現することに意味があると思うので、尻込みしないでやってもらえたらいいですね」

 ときどき、入居者から「こんにちは」と手話であいさつされることもあるという。高齢の入居者が、自分の伝えたことを覚えていてくれた―。レク担当として、感極まる瞬間だったことだろう。

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