検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > お寺と福祉の情報局 > 介護の豆知識 > 「話す言葉」も変革を マイケアプラン研究会

知る

お寺と福祉の情報局

「話す言葉」も変革を マイケアプラン研究会

2022年11月3日

 「『スイホ』『ガンマツ』『アザァーッス』。皆さん何の言葉か分かりますか?」。介護関連の市民団体が行った勉強会で、高齢の発表者がこんな問い掛けをした。「さあ…」「『ガンマツ』は医療の現場でよく聞きますけどね」と、首をかしげた参加者たちを前に、発表者はこう言った。「ね? 若い介護職と言葉が通じないから、私たちは老人ホームで暮らしにくいんですよ」

9月23日に行われた定例会の様子
9月23日に行われた定例会の様子

高齢者にやさしい日本語必要

 発表したのは玉井敏子さん。老人ホームに入居しているが、普段の生活で職員たちが使う言葉の意味を理解できず、不便さや疎外感を感じているという。

 勉強会を行ったのは「マイケアプラン研究会」(京都市)。介護サービスの計画書作成を支援する市民団体だ。参加した会員11人と家族ら4人に、介護の知識がないわけではない。

 玉井さんが答えを教えた。
 
 スイホ…水分補給
 ガンマツ…がん末期
 アザァーッス…ありがとうございます

 ほかにも「ショッカイ(食事介護)」「マジすか(本当ですか)」などの業界用語や若者言葉を列挙すると、参加者からは「ああ」「なるほど」との声が漏れた。

 玉井さんが、施設で話される言葉の分かりにくさを勉強会のテーマに取り上げたのは、自分を含む利用者の暮らしやすさだけを問いたかったからではない。昨今増えてきた外国人の介護スタッフとの意思疎通を心配しているからだ。

外国人介護職の急増を受け

 「日本語を母語とする私たちでさえ理解しにくいのだから、周囲の外国人介護スタッフはもっと不便な思いをしているのでは」と玉井さん。「私たちの介護のために来日してくれる方々に『暮らしやすい』と感じてもらうため、誰にでも理解のできる『やさしい日本語』を使うように、利用者もスタッフも心すべきではないでしょうか」と提案した。

 略語、専門用語、若者言葉だけでなく、外来語や造語などの乱用を避けること。短くはっきりと、平易な言葉でコミュニケーションを取ること―。玉井さんは、そうした必要性を訴えた。

マイケアプラン研究会代表の小國英夫さん
マイケアプラン研究会代表の小國英夫さん

 これを受け、司会進行を務めた研究会代表の小國英夫さん(83)は、日本語でのコミュニケーションがうまくいかず、不和が生じている外国人労働者の問題に言及した。「言葉が通じても、心まで通じているとは限らない」と話し、受け入れる側が話し言葉を工夫し、文化や価値観の違いも認め合えるよう意識を変えていく必要があると語った。

 また、介護人材の不足を補うために2019年4月に導入された在留資格、特定技能=用語解説=で受け入れている外国人労働者の数が伸び悩んでいることに触れ、「外国人技能実習生=用語解説=の劣悪な労働環境が国際的に有名になり、賃金も上がらないから、日本で働きたいと思う外国人が減っている。この国が魅力的でなくなったということだ」と危機感を示し、こう締めくくった。

 「言葉の問題に限らず、昔から異文化を上手に暮らしに取り入れてきた日本の良さを見直さなければ」

自分でケアプランを作る

 玉井さんの後に登壇した佐竹紀美子さんは、自身も要支援1でありながら、80代の要介護3の夫を在宅で介護する。玉井さんとは別の角度から、「話す言葉」について言及した。

 「私たちには子どもがいないにもかかわらず、たまに介護職から“お母さん”と呼ばれる。違和感がある」

 介護を受けても自分の生き方を大事にする人にとって、介護職から名前で呼ばれないことは、納得できないのかもしれない。

 佐竹さんは以前から自分でケアプランを作成し、主体的に介護サービスの利用について考えてきた。演題は「当事者主体での担当者会議」。ケアマネジャーではなく、佐竹さん自身が夫のサービス担当者会議を主宰した経験を語った。

 夫が普段利用する訪問看護やデイサービスでの様子を振り返りながら「介護が始まっても、今までと変わらない生活がしたいと望む利用者が多いと感じる」と述べた。その上で「自分がどうなりたいかを決めれば、自分の人生を大切にすることにつながる。介護でお世話になるからと周囲の人に遠慮するのではなく、うまく相談しながら自己実現していかなければならない」と語った。

制度と心中しない

ひと・まち交流館(京都市下京区)の外観
ひと・まち交流館(京都市下京区)の外観

 「マイケアプラン研究会」は月1回第3金曜に、ひと・まち交流館京都(京都市下京区)の2階会議室で定例会を行っている。約50人の会員たちによる意見交換や事例発表などを通じ「利用者の生き方を大切にする介護」の在り方を探求。会員同士の学びを深める。

 メンバーには、介護サービスの利用者だけでなく、利用者の家族、現役のケアマネジャー、施設職員、ソーシャルワークの研究者など、介護を巡るさまざまな立場の人々がいる。

 研究会は、介護保険制度が始まる前年の1999(平成11)年に、当時京都市社会福祉協議会で地域福祉部長を務めていた津止正敏立命館大学教授と、小國代表が発起人としてスタートした。9月23日に行われた今回は、実に第246回目の定例会だった。

 ケアプランは、介護保険を利用してどんなサービスを受けるのかを示す計画のことだが、本来は利用者自身が生き方を実現するために作るものだと、小國代表たちは考えている。自分らしい生き方を実現するために、どうやって介護サービスを活用するかが、そもそもの介護保険の考え方なのだという。

 「自治体任せでは、利用者の暮らしを思うようにしてくれない。介護保険制度と心中しないために、一人一人が主体的に考えて、ケアマネジャーとうまく付き合いながら自分の思いを反映させていかなければならない」

再改定計画中の冊子『私にもつくれます マイケアプラン~ケアプラン自己作成のための入門と実践ガイド』
再改定計画中の冊子『私にもつくれます マイケアプラン~ケアプラン自己作成のための入門と実践ガイド』

 今後は立ち上げたばかりの会員制交流サイト「フェイスブック」での発信を充実させ、2000年に発行し07年に改定した冊子『私にもつくれます マイケアプラン~ケアプラン自己作成のための入門と実践ガイド』を、現在の制度に合わせて再改定する計画だ。

 時代とともに変化する介護保険制度への対応や、人口減少を迎える将来を見据えた活動は、この先も続いていく。

マイケアプラン研究会のフェイスブックは>>こちら

【用語解説】特定技能

 人手不足の産業分野で外国から労働者を受け入れることを目的とし、2019年4月に創設された在留資格。一定の技能及び日本語能力基準を満たす者が許可される。22年6月現在、介護分野で働く特定技能の在留外国人数は1万411人。

【用語解説】外国人技能実習生

 開発途上国の「人づくり」に貢献するため、技術や知識を学び、母国の発展に寄与してもらうための在留資格「技能実習」で来日した外国人のこと。名目上は「労働力として雇用するための人材」ではないとされているが、実質的には雇用の調整弁として受け入れられている。低賃金や長時間労働などの劣悪な労働環境が近年、社会問題になっている。

おすすめ記事

同じカテゴリの最新記事

error: コンテンツは保護されています