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インタビュー

橋渡しインタビュー

音楽で元気♪入居者もスタッフも 田久保晶子さん

2023年2月2日

 埼玉県狭山市の入浴専門デイサービスで勤務する田久保晶子さん(37)は、ボランティア活動で音楽療法=用語解説=にも携わっている。利用者の意欲向上にとどまらず、スタッフと利用者の関係が良くなる可能性を音楽療法に見いだし、日々研鑽(けんさん)を積んでいる。

 田久保さんがボランティア活動に行く場所は、以前勤めていた同市内にある有料老人ホームだ。平日休みを利用して、自宅から楽器や楽譜を持って出かける。田久保さんの姿を見ると、入居者が次々と集まってくる。

音楽療法に携わる田久保晶子さん
音楽療法に携わる田久保晶子さん

 演奏する楽器は、主に「プク」と呼ばれる韓国の太鼓。レクリエーションに用いられることが多い人気の楽器だという。重々しく迫力ある音を響かせ、大きくて存在感のある太鼓を一目見ようと、普段は部屋に閉じこもりがちな入居者も興味津々で顔をのぞかせる。

 「♪わったしは、タクボアキコです」。軽快にたたきながら、リズムに合わせて自己紹介すると、場の空気が和んだ。田久保さんは入居者の前に太鼓を置き、床に膝をついて目線を合わせながら「どうぞたたいてみてください」と、優しく促す。

プクの音に驚きながらも楽しむ入居者(画像を一部加工しています)
プクの音に驚きながらも楽しむ入居者(画像を一部加工しています)

 ばちを手にした入居者が、ドンッ!と一発太鼓をたたいた瞬間、表情が一変した。口角が上がり、目に輝きが宿る。普段の生活では話しかけてもあまり反応が返ってこない入居者も、この日は違った。

 順番を待つ入居者たちもニコニコしながら、たたくのを楽しみに太鼓を目で追っている。田久保さんはすかさず一緒に持ってきた鈴や鳴子、エッグシェイカーなどを取り出し、入居者たちに太鼓の音に合わせて鳴らしてもらう。

 その場でさまざまな音が交じり合い、さらに民謡が加わって施設内に一体感が生まれていく。この時間を、田久保さんは何よりも愛おしく感じている。「集団に良い調和ができ、自然とみんなでこれからも仲良くしていこうという空気感が出ます。最後には『せーの!トン!』と音がそろうので、全員で達成感を感じられます」と話す。

働く介護士にも音楽を

 田久保さんの音楽療法を受けた入居者には、現場の介護士たちも実感するほどの効果が現れているそうだ。夜眠れない人が安眠できるようになったり、食事に関心のなかった人が食べ物を口にするようになったり。一方で、当の介護士たちにもいい影響があるようだ。

音楽レクは年齢を問わず楽しめる(画像を一部加工しています)
音楽レクは年齢を問わず楽しめる(画像を一部加工しています)

 「利用者さんが楽しむだけでなく、せめて私が来る時間は職員さんにも少し体を休めてもらえたら」と田久保さん。一日中施設内を動き回る介護士にも、入居者が奏でる音楽を近くで楽しみながら、気持ちよく過ごしてもらいたいと願う。同じく介護現場で活動する田久保さんだからこその気遣いだ。

 「音楽療法は入居者さんの意欲とやる気が出るところを、職員さんにも見てもらう絶好の機会だと思っています。いつもと違う一面が見えることは新しい発見につながりますから。これをきっかけに、入居者と介護士の関係性がより良いものになってほしいです」

 将来的には個人向けの音楽療法も行いたいと、田久保さんは希望している。施設の居室や自宅で孤立しがちな高齢者と向き合い、一人一人に合う楽器を用意して、個性や特技を引き出していきたいのだという。

良い介護士はたくさんいる

 田久保さんが介護職に興味を持ったのは、小学校の頃。授業で車いすやアイマスクを着けた体験がきっかけだった。高校卒業と同時に入職し、30歳で音楽療法士になりたいと決意。仕事をしながら専門学校へ通った。

プクをはじめ、音楽療法に使用する楽器
プクをはじめ、音楽療法に使用する楽器

 音楽療法士を目指したのは、好きな音楽を通じて、自分が働く施設の入居者に笑顔になってもらいたかったから。学生時代に吹奏楽部でオーボエを吹き、姉の影響でサックスやフルートなどにも親しんでいた経験が生かせると考えた。

 やりがいは、利用者からかけられる感謝の言葉だという。入浴介助後の「いいお湯で良かった」、レクリエーションへ行った時の「今日は楽しかった」など、何げない一言のおかげで、長年のキャリアを積み重ねられた。

季節の童謡や昭和の歌謡曲を歌うことも多い
季節の童謡や昭和の歌謡曲を歌うことも多い

 そんな田久保さんが考える「安心して預けられる介護施設」の見極め方は、介護士を観察することだという。

 「福祉業界は『きつい』『汚い』『危険』の3Kと言われることがあり、悲しい虐待事件のニュースなどが注目されがちですが、良い介護士は本当にたくさんいます」。初めて会った瞬間の印象や人柄、あいさつなどの対応が自然とできる介護士がどれだけいるか、注視することを勧める。それが、親身になって接してくれるかどうかの判断基準になるという。

 「介護職はありがとうと感謝される仕事なので、私は大好きです。これからも介護士として現場に立ち続けたい」。そうほほ笑んだ。

【用語解説】音楽療法

 音楽の持つ特性を用いた治療やリハビリのプログラム。認知症対策を含め、健康維持や機能回復、生活の質の向上を高める効果が期待される。子どもから高齢者まで、年齢や性別、障害の有無を問わずに行われる。

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